ウェルザー=メスト(指揮)が語るウィーン・フィルとの共演~今秋、東京・川崎・大阪を巡る待望のツアー

ロンドン・フィル、チューリッヒ歌劇場、ウィーン国立歌劇場の音楽監督を歴任し、世界的指揮者として不動の地位を築いてきたフランツ・ウェルザー=メスト。現代曲から古典派まで幅広いレパートリーをもち、オーケストラとオペラ双方で練達の演奏を聴かせてきた、まさに現代を代表するマエストロの一人である。今月、クリーヴランド管弦楽団と共に来日し、ベートーヴェンの躍動感と力強さ、そして深い精神性までをも描き出す好演で喝采を浴びた。来る11月には、ウィーン・フィルとの共演で再来日を果たす。このタッグでの来日公演は、2010年以来、実に8年ぶりのこと。今回は、東京(サントリーホール)のみならず、川崎(ミューザ川崎)と大阪(フェスティバルホール)でも名演を聞くことができる。マエストロに今回のツアーにむけた意気込みを訊いた。 築きあげてきた信頼関係 ウェルザー=メストが生を受けたのは、オーストリアの文化都市リンツ。ブルックナーの生家から4キロほどの場所で生まれ、ウィーンの音楽とともに育った。ウィーン・フィルとの来日公演のテーマは、もちろん楽都ウィーンである。自ら「ウィーンの音楽の血が流れている」と語るウェルザー=メストは、「ウィーン・フィルとオーストリア人の指揮者が組むわけですから、ウィーンの風を感じていただきたい」と、自信のほどをのぞかせた。彼が、ウィーン・フィルと初共演を果たしたのは1999年のこと。以来、実に20年近くにわたって深い信頼関係を築いてきた。また、2010年から14年にかけてウィーン国立歌劇場の音楽監督を務めた彼は、ウィーン・フィルとの関係を次のように語った。「共にウィーン国立歌劇場で17もの新制作プロダクションのプルミエ(初日)を成功させてきました。ウィーン・フィルは、私にとって親友です。彼らとの間には、より室内楽的なやり取りがあります」現在、自らが音楽監督を務め、先に来日公演を果たしたクリーヴランド管弦楽団の音色を、透明感に溢れ、精緻と賞した上で、ウィーン・フィルの特徴を、まろやかでダークな響きと述べた。さらに、「ウィーン・フィルには、比類ないパーソナリティがある。ウィーン国立歌劇場で、毎晩、オペラを演奏していることが、大きく影響しているのです」とし、偉大な歌手の歌声を聴くことによって培われた「歌うような演奏」が、ウィーン・フィルを唯一無二の存在にしていると指摘した。 フランツ・ウェルザー=メスト プログラムに込めた想い 今回の来日公演の楽しみは、ウェルザー=メスト&ウィーン・フィルの軌跡とも呼べるプログラムにある。例えば、ミューザ川崎(11月15日)とサントリーホール(11月24日)ではワーグナーの楽劇≪ニーベルングの指環≫の第三夜<神々の黄昏>からの抜粋(ウェルザー=メスト編)が披露される。「ウィーン国立歌劇場でやってきた成果を、是非、日本の皆様にも聞いていただきたい」。彼は、演出家ベヒトルフと共に同歌劇場の新しい≪ニーベルングの指輪≫を作り上げ、2007年から2009年にかけての初演(全4話)でタクトを握ったマエストロでもある。大阪公演の舞台となるフェスティバルホール(11月16日)と、サントリーホール(11月20日)での公演も聞き逃せない。予定されている作品は、モーツァルト《魔笛》序曲、モーツァルト《ピアノ協奏曲 第24番》、ブラームス《交響曲 第2番》という3曲である。 フランツ・ウェルザー=メストウェルザー=メストが、モーツァルト作品の中で「最もウィーン的」と呼ぶモーツァルト《魔笛》。「崇高かつ啓蒙的でありながら、他方ではモーツァルトに典型的な遊び心に溢れた曲」と語る。一方で、モーツァルト《ピアノ協奏曲 第24番》はその対極と呼べる作品だという。モーツァルトのピアノ協奏曲における最高傑作とされてきたこの曲を、彼は、「ウィーン的な精神と共にメランコリックでダークな面が表されている」とした。今回は、ピアニストにラン・ランを迎える。「ラン・ランと初めて出会ったのは、1999年のニューヨーク。まだ、彼は無名だった。それ以来、私たちは、何度となく共演を重ねてきました。クリーヴランドにも一年おきに来てくれています。あらゆる音楽的アドバイス、アイディアをざっくばらんに言い合い、互いに尊重しあうことが出来る間柄です。彼のテクニックは傑出しています。左手の故障で困難な時期もありましたが、難局をチャンスに変えていった。こうした経験を通じて、音楽をより深く理解し、演奏できるようになったと思います。彼はオーケストラを良く聞くから、一歩踏み込んだ深い対話ができると思っています」さらに、ブラームス《交響曲 第2番》は、ウェルザー=メスト&ウィーン・フィルが初めてブラームスに挑む一曲。「ブラームス作品の多くは、重々しく悲観的。しかし、南オーストリアのケルンテン地方で作曲されたこの作品には、美しいオーストリアの夏が表現されている。輝きを放つ夏の自然の中、日々感じた美しい感情が反映された作品なのです」と語り、ウィーン・フィルとの新しい共同作業を心待ちにしていると続けた。 フランツ・ウェルザー=メスト 日本での演奏に寄せて 日本の観客について訊かれたウェルザー=メストは、8年前のサントリーホールでの来日公演を踏まえて、「サントリーホールのお客様からの熱烈な歓迎に驚きました。世界各地で演奏してきましたが、これほどまでに熱狂的な観客に出会ったことはなかった」と日本で演奏することへの喜びを笑顔で語った。さらに「ホールは、そのものが一つの楽器。ピアニストがヤマハやスタインウェイといった楽器と対話をするように、オーケストラはホールと対話する。ウィーン・フィル独自のサウンドを引き出しながら、ホールの音響と対話し、音楽を創造していきます」と述べ、ミューザ川崎とフェスティバルホールでの演奏に意欲を見せた。ホールのディテールまで意識した演奏と、魅力的なプログラム。この秋、聞き逃せない演奏会であることは間違いない。 フランツ・ウェルザー=メスト取材・文・撮影=大野はな恵

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